そのなみだに、ふれさせて。
滑稽なほどに、この人のことが好きだ。
はじめて彼のご両親に会った日。いくみさんの前で言った「後悔しない」という言葉には、何の嘘もない。
「安心しろ。
南々瀬は、約束を破ったりしねえよ」
「あら、約束を破らないのはいつみでしょう?」
くすりと笑って、瑠璃と翡翠を見据える。
綺麗な子たちだと思う。名前のように、美しい。
「どうしたいのか、わがまま言っていいのよ」
「俺は、引き続きお世話になろうかなって。
いろ兄も呉兄もその方が安心だろうし。……南々ちゃんといっくんには、迷惑かけちゃうけど」
良くも悪くも、この子は場の空気を読むのが上手い。
それをわかってはいるけれど、追求することなく「瑠璃は?」と問うてみれば。
「わたしも、それでいいよ。
瀬奈とななみも一緒で、楽しいもん」
笑ってくれたけれど、どこか泣きそうな笑みだった。
それでも泣かないのが、瑠璃のプライドだと知っているから。
「じゃあ……南々ちゃん、いっちゃん。
もう一年だけ、瑠璃と翡翠のこと、お願いします」
「ええ、もちろん」
「はいはい、じゃあ真面目な話はここまでってことで。
さっさと飲も! いつみは弱いし飲めねえけど!」
「……お前端から騒いで飲みたかっただけだろ」
相変わらず仲良しな幼なじみコンビの会話に小さく笑って、仕切り直しの乾杯のためにグラスを持つ。
そのときふと、翡翠が一瞬浮かべた憂えた表情が。妙に心の中で、引っかかった。