そのなみだに、ふれさせて。
翡翠が隣の席に置いていた大きめの封筒から取り出したのは、見覚えのある冊子。
『OQ』のロゴが印刷されたそれは、オープンキャンパスなんかでも配布される、王学のパンフレットだ。
それをぱらぱらと捲り、「これなんだけど」と翡翠が開けたページには。
『王宮学園留学制度』の文字。わたしが生徒会長のときに行った異国交流の後に十数年かけて出来た、留学制度。
「俺、教師になりたいって言ったでしょ?
でも、それだけにとどめる気はないんだよね」
「うん、」
「教師になりたいとは思うけど、教育現場の改善にも取り組みたいっていうか……
子どもがもっと勉強しやすいような環境を作りたいっていうか……」
最近ルノやルアから翡翠宛に郵便物が送られてくることがあると思ったら、そういうことか。
あのふたりは実際に世界で仕事をしていたり、教育現場にも携わっているわけで。
おそらく翡翠から、先にその話も聞いていたんだろう。
「でもそのためには、外国の教育環境も知りたいんだよね。
あと、この先グローバル化で絶対的に英語は必要になってくるでしょ?」
「そうね。
だから英語が出来る方が就職なんかも有利よ」
「うん、だからね。
もし。……もし王宮学園に合格できたら、この留学制度で、留学したいと思ってて」
気が早いかもしれないと翡翠が先に言ったのは、そのためか。
実際にまだ合格したわけでもないのに言い出すのは、早いと思ったんだろう。そしてほかの兄妹たちに話していないのは、気を遣っているから。
ほかでもなく、兄妹たちに。
これ以上迷惑をかけたくないと思っているから。
「いろ兄と呉兄は、たぶん。
高校に合格したら、俺と瑠璃が一緒に住むって思ってる。結局、瑠璃もやりたいことが見つからないから、王学に進もうと思ってるみたいだし」
王学の倍率が高いのは、瑠璃のように考えている子も多いからだ。
設備の整った王学で、そこからやりたいことを見つけたい、という子が。だから、特進科と普通科の倍率は、ほかの3つの学科とは桁違いになる。