そのなみだに、ふれさせて。



瑠璃も同じ学校に入るのだから、当然王学の留学制度は知っている。

だからこそ、言いたいことは伝わったんだろう。



「俺は良いと思うけど……兄さんは?」



「俺も翡翠のやりてえことルノから聞いてるし、別にそれ自体に反対はしないけどねえ。

留学するのもお金がかかるんだぞ〜」



「わかってるよ。

南々ちゃんと、それも話し合って決めた」



はじめて翡翠が留学したいことを話してくれてから、瑠璃の知らないところで、何度かわたしと翡翠は話をした。

いつみには「翡翠が留学したいと思ってる」ことだけを告げて、細かいことは話していないけれど。



「留学費用はわたしが負担するわ。

……ただ、甘やかしてばかりでもいられないでしょう?だから、ちゃんと条件付きよ」



「1年、しっかり頑張ってくるから。

こっちにもどってきたら、バイトしてその分は返すって約束だよ」




両立が簡単じゃないことは、翡翠だってちゃんと理解してる。

だけど翡翠ならその約束を守ってみせるだろうし、そうじゃないなら、わたしははじめからこんな約束を交わしたりはしない。



「瑠璃」



自分でその責任を負えるのなら、椛や呉羽は反対しない。

そうわたしが思った通り、ふたりはそれ以上なにか口出ししなかった。



名前を呼ばれた瑠璃が、肩をぴくりと震わせる。

それを一瞥した翡翠はまぶしそうに目を細めてから、もう一度「瑠璃」と呼んで。



「……瑠璃は、やっぱり、嫌?」



不安そうに首をかしげる翡翠を見て、瑠璃は笑ってみせる。

その表情は、瑠璃がここにきたあの日と、同じまま。──強く在ろうとするその姿は、やっぱり、瑠璃が捨てられないプライドを携えていた。



「ううん。だいじょうぶ。

……気をつけて、いってきてね」



< 49 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop