そのなみだに、ふれさせて。
瑠璃も同じ学校に入るのだから、当然王学の留学制度は知っている。
だからこそ、言いたいことは伝わったんだろう。
「俺は良いと思うけど……兄さんは?」
「俺も翡翠のやりてえことルノから聞いてるし、別にそれ自体に反対はしないけどねえ。
留学するのもお金がかかるんだぞ〜」
「わかってるよ。
南々ちゃんと、それも話し合って決めた」
はじめて翡翠が留学したいことを話してくれてから、瑠璃の知らないところで、何度かわたしと翡翠は話をした。
いつみには「翡翠が留学したいと思ってる」ことだけを告げて、細かいことは話していないけれど。
「留学費用はわたしが負担するわ。
……ただ、甘やかしてばかりでもいられないでしょう?だから、ちゃんと条件付きよ」
「1年、しっかり頑張ってくるから。
こっちにもどってきたら、バイトしてその分は返すって約束だよ」
両立が簡単じゃないことは、翡翠だってちゃんと理解してる。
だけど翡翠ならその約束を守ってみせるだろうし、そうじゃないなら、わたしははじめからこんな約束を交わしたりはしない。
「瑠璃」
自分でその責任を負えるのなら、椛や呉羽は反対しない。
そうわたしが思った通り、ふたりはそれ以上なにか口出ししなかった。
名前を呼ばれた瑠璃が、肩をぴくりと震わせる。
それを一瞥した翡翠はまぶしそうに目を細めてから、もう一度「瑠璃」と呼んで。
「……瑠璃は、やっぱり、嫌?」
不安そうに首をかしげる翡翠を見て、瑠璃は笑ってみせる。
その表情は、瑠璃がここにきたあの日と、同じまま。──強く在ろうとするその姿は、やっぱり、瑠璃が捨てられないプライドを携えていた。
「ううん。だいじょうぶ。
……気をつけて、いってきてね」