そのなみだに、ふれさせて。
近づけばほぼ100%の確率でセクハラされるため、自ら安易に近づかない、というのが正しい。
なのにどうしてわたしが彼の隣の席なのかというと、わたしが会計補佐だからだ。
一応葛西先輩の名誉のために補足しておくなら、彼は別に変態ではない。
ちょっと女の子好きなだけ。だからさらさらと口説き文句を述べてくるのも日常で、彼にとっては挨拶みたいなもの。
「ツレないなぁ。
かわいい顔が台無しだよ、麻生」
やれやれ、と。
肩をすくめるそぶりを見せる彼に、突如ばさりと何かが被せられた。……ブランケット?
「あんた、声デカいしうるさいんだけど……」
寝起き特有の低く掠れた声でそう言って葛西先輩を睨んだのは、生徒会副会長の宮原 あけみ先輩。
さっきまでソファで居眠りしていたけど、どうやら葛西先輩の声で目が覚めたらしい。
投げられたのは、彼女が羽織っていたブランケットだったようで。
そこから脱した葛西先輩は、「髪が崩れた」と自身の髪を手で整えていた。
「ってか、なんでそんな機嫌悪いのあけみ。
もしかして、いま女の子ウィーク中?」
「あんた殺されたいの……?」
デリカシーが無い、と。
あけみ先輩の目からひしひしと伝わってきているというのに、葛西先輩はゆるやかな笑みを湛えて一切崩さない。
葛西先輩とあけみ先輩は同い年の幼なじみで、昔からこんな感じらしい。
生徒会に女子生徒はふたりだけ。だからあけみ先輩はわたしにとって、頼れるお姉さんみたいな存在だ。よく、わたしの相談にも乗ってくれる。
「ああ、女の子ウィークは先週終わったもんね」
「……は!?
あんたがなんで知ってんのよ!?」
「だってあけみ、
いつも女の子ウィークになると顔色悪いじゃん」