そのなみだに、ふれさせて。

・知るも知らぬもむすびは有罪とて








──ピクッと、指先が揺れる。

そのまま這わせてシーツだということを確認してから、ゆっくりまぶたを持ち上げて。無意識に漏れたのは、安堵のため息だった。



なつかしい、ゆめをみた。

まだわたしたち家族が、家族だった、頃の。



「起きなきゃ……」



ぽつりとつぶやいて、身体を起こす。

時刻を確認すればいつもよりすこし早い時刻だったけれど、自室のある二階から一階へと降りた。



リビングにいるいっくんと南々ちゃんに「おはよう」を言って、そのままリビングを突っ切る。

洗面所で顔を洗って歯磨きしてからもう一度部屋にもどり、制服に着替えた。



いっくんはその日のお仕事によって出勤時刻も何パターンかあるけど、今日はどうやらゆっくりな日みたいだ。

ダイニングチェアに腰掛ける姿は、今日も見目麗しい。



その姿が、不意に。

なぜか不意に、会長と、重なって見えた。




「……ねえ、いっくん」



「ん?」



「いっくんって、

南々ちゃんとかなり若い頃に結婚したよね?」



たしかわたしがまだ小学校に通う前、とかだったはず。

3月にわたしと翡翠の合格祝いと称してみんなが集まってくれた時、ふたりは「結婚10周年」のお祝いをしてもらっていた。



……いっくんは南々ちゃんのひとつ年上で、誕生日がくれば30歳。

ということは、そのまま逆算しても、かなり若い頃に結婚していることになる。



「ああ……、まあ、色々あったからな」



わたしの朝食を出してくれた南々ちゃんが、それを聞いてくすりと笑う。

それから、「急にどうしたの?」とわたしに優しい瞳を向けた。



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