そのなみだに、ふれさせて。
・知るも知らぬもむすびは有罪とて
◆
──ピクッと、指先が揺れる。
そのまま這わせてシーツだということを確認してから、ゆっくりまぶたを持ち上げて。無意識に漏れたのは、安堵のため息だった。
なつかしい、ゆめをみた。
まだわたしたち家族が、家族だった、頃の。
「起きなきゃ……」
ぽつりとつぶやいて、身体を起こす。
時刻を確認すればいつもよりすこし早い時刻だったけれど、自室のある二階から一階へと降りた。
リビングにいるいっくんと南々ちゃんに「おはよう」を言って、そのままリビングを突っ切る。
洗面所で顔を洗って歯磨きしてからもう一度部屋にもどり、制服に着替えた。
いっくんはその日のお仕事によって出勤時刻も何パターンかあるけど、今日はどうやらゆっくりな日みたいだ。
ダイニングチェアに腰掛ける姿は、今日も見目麗しい。
その姿が、不意に。
なぜか不意に、会長と、重なって見えた。
「……ねえ、いっくん」
「ん?」
「いっくんって、
南々ちゃんとかなり若い頃に結婚したよね?」
たしかわたしがまだ小学校に通う前、とかだったはず。
3月にわたしと翡翠の合格祝いと称してみんなが集まってくれた時、ふたりは「結婚10周年」のお祝いをしてもらっていた。
……いっくんは南々ちゃんのひとつ年上で、誕生日がくれば30歳。
ということは、そのまま逆算しても、かなり若い頃に結婚していることになる。
「ああ……、まあ、色々あったからな」
わたしの朝食を出してくれた南々ちゃんが、それを聞いてくすりと笑う。
それから、「急にどうしたの?」とわたしに優しい瞳を向けた。