そのなみだに、ふれさせて。



「あの、葛西先輩……」



「ん? どしたの麻生」



「いや、どうしたっていうか……」



「あんたのその格好よ。

なに、寝ぼけたままここまで来たわけ?」



そろそろと彼から答えを聞き出そうとするわたしと違って、はっきり聞いてしまうあけみ先輩。

彼女の言う通り、わたしが言いたかったのは、彼のその服装だ。別に何か問題ってわけじゃない。……問題じゃ、ないんだけど。



「ああ、これ?

いや、どうせここにいるだけで教室行かないじゃん?なら制服に着替えるのめんどいなと思って、寝間着のまま下りてきただけ」



彼が浴衣だったから、思わず聞いただけだ。

……っていうか寝間着ってことは、葛西先輩って浴衣で寝てるのか。




プラチナゴールドの猫っ毛はいつも通りふわふわで。

あきらかに、和服よりも洋服の方が好きそうな見た目なのに。いや、めちゃくちゃ似合うけど。彼の纏う透明な和の薫りが、その雰囲気をさらに繊細そうに魅せているけど。



「その割に、

カラーコンタクトはちゃんと嵌めてくるんだね」



「寝間着で来ただけで、ちゃーんと顔洗って歯も磨いて下りてきてるからね。

んー。俺やっぱ和服の方が楽で好きだわ」



……めずらしいな。

いまどき着物や浴衣の方が好きなんて言う人、あんまりいないのに。南々ちゃんは稀にお仕事で和服を着てるけど、普段は着ないし。



なんて思っているのが、どうやらばっちり顔に出ていたらしい。

葛西先輩はくすりと笑って、わたしの名前を呼ぶ。



「俺のガラじゃない、って、思ったでしょ?

でもこう見えて俺の実家、茶道の家元だよ?」



「………」



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