そのなみだに、ふれさせて。



よく似てるの。

そこはかとない優しさも、冷たく見せるのに理不尽な不平等は望まないその姿も。……よく似てるから、こんなにも。



「……なんか、こういうの、初めてね。

あたしたちって、結構長い時間一緒にいるのに、案外知らないこと多いし」



不恰好に、揺さぶられてしまう。



「ほら、会長の彼女のこともそうだったでしょ?」



幼い頃、物語に出てくる王子様は、わたしにとっていっくんのような人だった。

いっくんのことを恋愛感情で好きってわけじゃない。彼は南々ちゃんに一途で、その愛情の深さは、そばで見てきたわたしがよく知ってる。



だけど、そのまっすぐな気持ちは。

王子様のような人という憧れのイメージを、わたしに植えつけるには十分で。



夢を見ようと現実逃避して、悲劇のヒロインぶって現実に溺れたふりをして。

だけどわたしはまだ、お姫様という言葉に踊らされてしまう、青くて夢見がちな世界の中。




「なら……

いまからでも、仲良くなればいいんですよ」



「仲良く、ねえ」



自分の過去を知られることほど怖いものはない。

だってそれは、わたしの弱さを自ら晒すことになるんだから。……そしてそれをわたしは、ずっと、極端に怖がっていた。



だけど、気づいたの。

わたしがそう思っているように、誰しも誇れるような過去ばかりじゃないってこと。



気づいたから、いまなら言える。

いっくんはこんなわたしのことも、綺麗だって言ってくれた。……だから、いまは、すこしだけ。



「翡翠の代わりのわたし、じゃなくて。

わたしはわたしとして、ここにいたいんです」



うぬぼれじゃなく現実で、踏み出したい。



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