そのなみだに、ふれさせて。
そして葛西先輩は、よくまわりを見てる。
先週って、あけみ先輩の顔色悪かったっけ……?
もし気づいたとしたら、わたしだってその時点で彼女に声をかけているはず。
でもそんな様子はなかったということは、そう簡単に見抜けるほど表情には出ていないわけで。
「あけみのことは俺がいちばん知ってんだから」
そう言った葛西先輩は、一度ソファから立ち上がる。
そして綺麗にたたんだブランケットを、あけみ先輩の膝の上にかけてあげていた。
……セクハラさえしてこなければ、優しくていい人なのに。
見た目も十分かっこいいから、心底もったいない。
「瑠璃」
ふたりのやりとりをぼんやりと見ていたら、突然名前を呼ばれた。
この部屋でわたしを名前で呼ぶのは、あけみ先輩か彼だけ。そしていまわたしを呼んだのはあけみ先輩じゃない、となると。
「どうしたの? ちーくん」
わたしの向かい側に座る、彼だ。
向かい側と言ってもテーブルをはさんでいるから、結構距離があるけど。
萩原 千勢。
生徒会長は2年間の成績のトータルが最も高かった新3年生の中から選ばれ、その生徒会長が残りの役員をすべて名指しで指定する。
基本的には誰も断らないけど、稀に例外もあるらしい。
そして生徒会役員は各学年ふたりの6人構成で、書記担当のちーくんが、わたしと同い年の役員。
葛西先輩とあけみ先輩のように幼なじみではないけれど、幼い頃からの知り合いだ。
だからずっと、ちーくん呼び。
「定期考査の勉強教えて欲しいって、
そろそろ瑠璃が言いだす頃かなぁって思って」
ぽつり。彼の言葉に、一瞬またたく。
そして、思わずふっと笑みがこぼれた。