そのなみだに、ふれさせて。



「ここが生徒会棟……」



「はやく行くよ。

ここを見学しに来たわけじゃないんだし」



「わ、わかってるよ……」



棟の中は、やけに静かで。

ふかふかの絨毯が足音を吸収するのが、逆にそこはかとない恐怖心を煽る。指示された通り、わたしたちは廊下をまっすぐ進んだけれど。



黒い扉を入ってすぐの場所と、廊下の半分よりもすこし奥側。

その二箇所に階段があっただけで、廊下の途中には部屋も何もなく。一番奥には、部屋がひとつ。



ノックすれば今度『どうぞ』を返してくれたのは、女の人の声だった。

生徒会に女の人はひとりしかいないから、宮原あけみ先輩で間違いない。入学式で彼女は祝辞を述べていたけど、凛としていてかっこよかった。



わたしも、宮原先輩みたいな女の人になりた……じゃなかった。

今日はそんなことでここにきたんじゃないんだった。




「失礼します」



「し、失礼します……っ」



っていうか「生徒会棟行ってくる」って言った翡翠に、思わずついてきちゃったけど。

……わたし、完全に場違いだよね!?



「いらっしゃい。

……あら。兄がかっこいいって噂聞いてたけど、妹の方も普通にかわいいじゃない。ロリータね」



「、」



「はじめまして。副会長の宮原あけみです。

ちょっといま欠けてるけど、あたしと3年の副会長、菅原先輩のふたりで話を聞かせてもらうわ」



そう言って席に促され、わたしは目立たないように黙ってソファに腰掛ける。

先輩ふたりを前にしても物怖じしない翡翠は、「単刀直入に言います」と話を切り出した。



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