そのなみだに、ふれさせて。
「ひ、引き受けたと思います……」
「その理由は?」
「ことわれ、なくて」
歴代の生徒会役員の指名を蹴った人は、ほとんどいないはず。
なのに「無理です」なんて理由で断るなんてこと、きっとわたしには、できない。
わたしは、人の目を集めるのがひどく怖い。
感情に敏いわけではないから。どんな風に思われてるのか見えなくて怖いだなんてそんなの、おこがましいって、わかってるけど。
「……なら。ここで指名をお前に変更する」
双子の翡翠のことは大好きだ。
だけどいつからか比べられるのが怖くなって、明るいところで常に前向きに活動しようとするその影に、隠れて生きてきたのに。
「それなら、引き受けてくれるんだろ?」
運命はいつだって、一瞬で、形を変えてしまう。
残酷なほど、一瞬で。
「……瑠璃」
くちびるを噛んでうつむいたわたしの耳に、心配そうな翡翠の声が届く。
それを聞いて、すぐに分かった。
自分のせいでわたしが役員になるかもしれないことを、翡翠が気にしてるって。
わかったから。……すぐに、表情をつくった。
「……わかりました。
本当に指名されるなら、引き受けます」
本音なんて、見せなくていい。
だってこれは。……誰かがしあわせになるための、翡翠がしあわせになるための、嘘だから。