そのなみだに、ふれさせて。
「おはよう」
タイミングを見計らったかのように、彼がリビングへ入ってきた。
それに各々おはようございますを返してから、あけみ先輩が「どこかに行ってたの?」と話しかける。
「ああ。……それより。
どうしてお前はその格好なんだ?」
昨日の葛西に続いてるのか?と。
苦笑気味に言う会長に、ふるふると首を横に振って。菅原先輩からのプレゼントだと言えば、「へえ」とつぶやく彼。
「やっぱり黒髪のほうが、よく似合う」
ふっと。
優しく笑った会長が、わたしの黒髪に触れる。
彼の指に、わたしの髪がするりと絡んで。
深い意味なんてないはずのその触れ合いに、どくっと心臓が揺れた。……っ、距離近い!
「あ、あの、会長……?」
「ん?」
「どこ、行ってたんですか?」
このままだと、錯覚しそうになる。
会長には彼女がいるって知ったはずなのに、彼があまりにも優しくわたしの髪に触れるから。
会長の存在を感じている方だけ、やけにあつい。
その、不自然な、熱が。
「……、あいつが迎えに来いってうるさかったんだよ。
理事長室から教室まで送り届けてきた」
彼の言葉で、一瞬にして冷めていく。
本当に、あっけないほど、一瞬で。