そのなみだに、ふれさせて。



十数分後。

着物からようやく制服へと着替えたわたしは、葛西先輩と、学校からそう遠くないカフェにいた。



しかもきっちりパソコン持参で、お互いに仕事を広げながら。

プラカップのカフェオレに口をつけて、「なんですか」と聞き返せば。



「悪いこと言わないから。

会長のこと、あきらめたほうがいーよ」



「………」



「聞いたでしょ、さっき。

御陵ほづみと付き合ってるって」



……聞いたけど。この耳でしっかり聞いたけど。

それがどうしてわたしが会長のことをあきらめる理由になるんだろう。



たしかに彼女のいる人を好きになるなんて報われない確率のほうが圧倒的に高いし、あまり気持ちのいいものでもないけれど。

それでもこうやって彼がはっきり告げる、理由は?




「全国随一の極道一家の娘。

御陵嬢は一人っ子。……それを知った上で会長がその子と付き合ってるなら、会長は御陵家を継ぐ気でいるんだと思うよ」



「……継ぐ、」



「そ。……つまり極道一家の跡継ぎ」



そう言われても、実感も湧かない。

だってわたしが知っているのは、わたしたちが通う学園の、生徒会長であって。



「そんな危うい立場に立ってる人。

……好きになっても、この先後悔するだけだ」



その膜の下に隠れた素顔を、知らないから。

……その膜に触れられるほど、近くないから。



「だから。

……あきらめて、俺と付き合わない?」



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