そのなみだに、ふれさせて。
「さすがちーくん、その通りだよー。
出そうな場所ヤマ張って教えて欲しいぐらいだもん」
「ふふ、だと思った。
なら今日の放課後にでも、家にお邪魔していい?」
「うん、いっしょに帰ろうね」
言葉で約束して、微笑み合う。
中学の頃から彼にはテスト期間にお世話になっているため、これももはや恒例行事だ。
「瑠璃ってほんと真面目よね。
まだ定期考査まで1ヶ月切ったとこじゃない。……ま、あたしは3日前までやんないけど」
「う……だって、勉強苦手なんです……」
3日前までやらないと言い切るその余裕も、それでも生徒会役員でいられる成績も、本当に羨ましい。
ここ王宮学園では、生徒会役員は授業に出なくてもいいし、強制されている部活だって免除される。
でもそれと引き換えに、待っているのは大量の生徒会の仕事。
普段は授業時間を使って仕事しているわたしたちが役員でいるための絶対条件は、常に学年10位の成績を保つこと。
エリート集団の中にぽーんと放り込まれてしまったわたしは、みんなと違ってテスト前に余裕はないのだ。
入学して初の定期考査は、ちーくんが自分の勉強時間を削って色々と教えてくれたおかげで、学年6位だったけど。
あまりにも悪い成績が続けば理事長から仕事のストップを言い渡され、生徒会役員なのに仕事が出来なくなる。
でも役員から外されることはなくて、生徒会の幽霊部員扱い。
まわりの生徒からは当然良くは思われないし、何よりほかの役員に盛大に迷惑をかける状況になる。
そして歴代の生徒会役員に、外された者はいない。
……うん。とんでもなくプレッシャーだ。
「別にいいよ、仮に落ちて仕事ストップ言い渡されたとしてもさ、まだ役員じゃん。
麻生は生徒会のマスコットキャラクター的な存在だし」
リビングの奥にあるキッチンからペットボトルのグレープジュースを持ってきて、わたしの隣に座る葛西先輩。
新発売らしいそれは、普段見るぶどうジュースのように濃度の濃いものではなく、透き通るような薄紫だった。