そのなみだに、ふれさせて。
だからひどく躊躇っているのは事実だけど。
……どうしてそこで葛西先輩が出てくるのか。
「あきらめるのは、いいとしても……
先輩と付き合う気はありません」
「はっきり言うね。
俺、これでもモテるはずなんだけどな」
「知ってますよ」
でもそれとこれとは別だ。
すべての女性が自分を好きになると思ってもらっちゃ困る。たしかに頼れる先輩だけど、残念ながら恋愛対象として見た覚えはない。
「それに先輩、すぐ彼女変わるじゃないですか」
この人が彼女をつくる頻度の高さといえば、それはもう、会長がミルクセーキを飲む頻度くらいだ。
伝わらないかもしれないけど、とにかく回数は多い。
「いまフリーだし、俺のもんになってよ。
……麻生のこと、泣かせない自信はあるよ」
「……別れたあとにギスギスしますよ絶対」
「なんで別れんの前提?
俺、麻生のことしあわせにしてやれるよ」
どの口が言うんだ。どうせほかの女の人のこともそうやって軽く口説いてきたくせに、と。
脳内ではつらつらと文句を言えるのに。
「……無理ですよ。
わたしは会長のことが好きなんですから」
実際に口を突いて出るのは、マイナスな発言ばかり。
だけどそれに引っかかりを覚えたように顔を上げた葛西先輩は、人工的なオッドアイでわたしを見つめた。
「会長は振り向いてくれないのに?
……好きなら、報われない片想いでもしあわせ?」