そのなみだに、ふれさせて。



だからひどく躊躇っているのは事実だけど。

……どうしてそこで葛西先輩が出てくるのか。



「あきらめるのは、いいとしても……

先輩と付き合う気はありません」



「はっきり言うね。

俺、これでもモテるはずなんだけどな」



「知ってますよ」



でもそれとこれとは別だ。

すべての女性が自分を好きになると思ってもらっちゃ困る。たしかに頼れる先輩だけど、残念ながら恋愛対象として見た覚えはない。



「それに先輩、すぐ彼女変わるじゃないですか」



この人が彼女をつくる頻度の高さといえば、それはもう、会長がミルクセーキを飲む頻度くらいだ。

伝わらないかもしれないけど、とにかく回数は多い。




「いまフリーだし、俺のもんになってよ。

……麻生のこと、泣かせない自信はあるよ」



「……別れたあとにギスギスしますよ絶対」



「なんで別れんの前提?

俺、麻生のことしあわせにしてやれるよ」



どの口が言うんだ。どうせほかの女の人のこともそうやって軽く口説いてきたくせに、と。

脳内ではつらつらと文句を言えるのに。



「……無理ですよ。

わたしは会長のことが好きなんですから」



実際に口を突いて出るのは、マイナスな発言ばかり。

だけどそれに引っかかりを覚えたように顔を上げた葛西先輩は、人工的なオッドアイでわたしを見つめた。



「会長は振り向いてくれないのに?

……好きなら、報われない片想いでもしあわせ?」



< 70 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop