そのなみだに、ふれさせて。
◆ Side紫逢
まっすぐに寄せられる視線を見て、ああ、この子はやっぱりブレないのか、と。ひそかに悟る。
出会って3ヶ月。仲が良いかと問われれば微妙な反応にはなるが、少なくとも、得たものはある。
「……知りたいの? この瞳の理由」
手を伸ばして触れたのは、なめらかな頬。
さっきは会長に髪に触れられただけで、あんなに動揺していたくせに。……平然としていられるのも、気に食わないな。
「教えてくれないなら、いいです」
「ううん、教えてあげる」
健気だな、とは思ってた。
正直麻生はわかりやすいから、スガちゃんも、あけみも、俺も萩原も、みんなその片想いに気づいてる。
……でも、ばかみたいにまっすぐで。
その気持ちがほんのすこしも揺らがないのは、正直不思議でたまらない。
「俺の家、茶道の家元って言ったでしょ」
だって所詮は赤の他人でしかないのに。
その他人をどこまでも想えるその気持ちを、きっと俺は理解できない。……そう、思ってた。
「でもね、そもそも俺は存在を認められてない。
……葛西家当主の、愛人の息子だから」
そう思ってた、はずなんだけど。
「でも本妻に子どもがいないから。
……一応、俺が葛西の名を継ぐしかなくて、」
薄らと、違うものが芽生えはじめてる自覚はある。
だってその健気な姿が、愛おしいから。……泣かせたくないって気持ちに、嘘は、ない。
「髪は染めてるけど、元々の色もシルバーに近いんだよね。
それにヴァイオレットの瞳なんて、早い話養子の俺が良く思われるワケがない」