そのなみだに、ふれさせて。



◆ Side紫逢



まっすぐに寄せられる視線を見て、ああ、この子はやっぱりブレないのか、と。ひそかに悟る。

出会って3ヶ月。仲が良いかと問われれば微妙な反応にはなるが、少なくとも、得たものはある。



「……知りたいの? この瞳の理由」



手を伸ばして触れたのは、なめらかな頬。

さっきは会長に髪に触れられただけで、あんなに動揺していたくせに。……平然としていられるのも、気に食わないな。



「教えてくれないなら、いいです」



「ううん、教えてあげる」



健気だな、とは思ってた。

正直麻生はわかりやすいから、スガちゃんも、あけみも、俺も萩原も、みんなその片想いに気づいてる。



……でも、ばかみたいにまっすぐで。

その気持ちがほんのすこしも揺らがないのは、正直不思議でたまらない。




「俺の家、茶道の家元って言ったでしょ」



だって所詮は赤の他人でしかないのに。

その他人をどこまでも想えるその気持ちを、きっと俺は理解できない。……そう、思ってた。



「でもね、そもそも俺は存在を認められてない。

……葛西家当主の、愛人の息子だから」



そう思ってた、はずなんだけど。



「でも本妻に子どもがいないから。

……一応、俺が葛西の名を継ぐしかなくて、」



薄らと、違うものが芽生えはじめてる自覚はある。

だってその健気な姿が、愛おしいから。……泣かせたくないって気持ちに、嘘は、ない。



「髪は染めてるけど、元々の色もシルバーに近いんだよね。

それにヴァイオレットの瞳なんて、早い話養子の俺が良く思われるワケがない」



< 72 / 203 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop