そのなみだに、ふれさせて。



人とは違う、髪と瞳の色。

茶道の家元として規則やら常識やらにこだわる人間たちに、俺のソレが通用するなんて端から思ってない。



「まあ、髪はただ単に好きで染めてるだけなんだけど。

……こっちの瞳の色は、ちゃんと意味があって」



触れたままの頬がやわらかくて、心臓が引き攣る。

……淡い熱に、浮かされそうになる。



「ひとつは、俺を良く思っていない家の人間たちに反抗してやろうって思って。

ただでさえ目立つ容姿を、さらに目立つようにしてる」



この子はまぶしいくらいに素直だ。

目を逸らさないで、話を聞いてくれる。……それだけで俺がどれだけ救われるのか、わかってないんだろうけど。



「もうひとつは。

……俺なりの、境界線なんだよね」



俺とは違う綺麗な漆黒の双眸が、淡く揺らめく。

なぜか泣いてしまいそうな彼女を見て、思わずふっと笑みを零した。




「境界線……?」



「うん。こんな瞳の色でも。

……俺のことを信じてくれる人との、境界線」



麻生は信じてくれる人だよね、と。

俺の独白に対してうなずいた彼女は、頬に触れたままの俺の手に自分の手を添える。向けられた視線はやっぱりまっすぐで、それこそ。



「まだまだ距離はあるかもしれませんけど。

……わたしは葛西先輩のこと、信じてますよ」



奪ってやりたくなる。

会長にだけ向けられる特別な視線を、奪って。



「だってわたし。

……なんだかんだ、みんなのこと好きですから」



俺だけしか見えなくなればいいのに。って。

何度も何度も。……感情に揺らされる。



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