そのなみだに、ふれさせて。
とんでもなくハマりそうだ。
健気で、一生懸命な彼女の姿に。
「そうだね。……仕事しようか」
「いつまでここにいます?」
「んー、お昼までに出よう。
あんまり長居するのも悪いし、麻生はお昼ご飯にお弁当持ってきてるんだよね?」
俺の質問に、明るい表情でうなずく彼女。
「自分で作ってんの?」と問えば、ふるふると首を横に振ってから、うれしそうに口を開く。
「南々ちゃ……居候してるお家のお母さんが、忙しいのに毎朝作ってくれるんです。
旦那さんのをつくるついでだって言ってるんですけど、中身違ったりもするし……」
基本的に生徒会棟から出ないため、麻生がお弁当を広げているのはよく見るけど。
見栄えも綺麗で、ちゃんと栄養のバランスが取れたものが詰め込まれていた気がする。
「……愛されてるじゃん。
実の父親と、義理の母親が冷たい俺と違って」
「……そんなこと、ないですよ」
「ううん。
大事に思ってなきゃ、出来ないこともあるよ」
実の子どもにすら冷たい人間がいるのに。
麻生が今そうやって笑っていられるのは、まわりの大人たちに愛されているからだ。
「……葛西先輩。
先輩はたぶん、勘違い、してますよ」
「ん?」
「わたし。
……実の母親に、捨てられてるんです」