そのなみだに、ふれさせて。
にこり。
なんでもないように笑って言う麻生に、思わずくっと息を詰めた。……それ、って。
「だから居候してるんです。
……でも、ちーくんにしか言ってないので」
「………」
「ほかのみんなには、内緒にしてください」
どうしてだろうか。
彼女のその言葉で、ひどく悲しくなるのは。……守らないとって、そんな使命感に駆られる。
「先輩が秘密を話してくれたお返しです」
何か特別なことをしたわけじゃない。
確かに麻生だから話したのは本当だけど、そうやって麻生の傷を抉るようなことをしたかったわけじゃないのに。
「……葛西先輩? わっ、」
言いようのない気持ちをおさえたまま、ひとまずカフェでの作業は終えて。
ふたりで学校へもどる最中。人気のない道に差し掛かってから、彼女のことを抱きしめた。
「……ごめん、麻生」
「え? なんで謝ってるんですか?」
不思議そうに俺を見上げる麻生は、本当にどうして謝られているのかわからないって顔をしていた。
だけど。どれだけ気丈に振る舞っていたって、平気じゃないことを知ってる。"なんでもない"はずがない。……だって俺がそうだから。
「……俺まだ麻生に黙ってることある」
「……? 黙ってること?」