そのなみだに、ふれさせて。

・恋だの愛だのさぞ不確かなわけは








「ただいま、です」



「ただいまもどりました〜」



リビングの扉を開いて、心なしか声のボリュームが下がっているわたしと。

対照的に、ゆるやかな声で告げる葛西せ……紫逢先輩。さっきまではずっと余裕気に大人の顔をしていたくせに、「紫逢って呼んでよ」と駄々をこねられたら、うなずくしかなかった。



「おかえり。……どしたの、手なんか繋いで」



ちょうど時刻は昼休み。

会長はまた部屋にいなくて、もしかしたら彼女のところに行ってしまったのかもしれないと思いながら。



「ん? 俺、瑠璃と付き合うことにしたから」



つないでいない方の手でぽんと頭を撫でられて、わずかに肩が揺れる。

興味なさ気な顔をしていたあけみ先輩は目を見張って、「本気で?」とわたしに顔を向けた。




「なに、こいつに脅されてるの?」



「脅されてないです……」



「どしたの急に。

あんた会長のこと好きじゃない」



「っ、」



みんなの前で……!と。

言いそうになったけれど誰もおどろいたような顔をしないから、もしかしたらバレバレだったのかもしれない。とんでもなく恥ずかしいけど。



「脅してないよ。

……瑠璃が自分で付き合うって言ってくれた」



ね?と。

顔を覗き込んでくる紫逢先輩のオッドアイに見つめられて、きゅっと心臓が縮んだような気がした。



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