そのなみだに、ふれさせて。
「……葛西先輩って。
瑠璃のこと、好きだったんですか」
「気づいてたでしょ?」
「……まあ、多少は」
この場でもひとり冷静なちーくんは、静かに「瑠璃」とわたしを呼ぶ。
……ちーくんを見るのが怖いなんて、はじめてだ。
「瑠璃が自分で決めたことなら、俺は文句は言わないよ。
でも。……俺の気持ちとしては納得してない」
「っ、」
わかってる。わかってるよ。
ちーくんが納得してくれるなんて、思ってない。だってわたしは、身勝手な理由で、紫逢先輩のことを選んだんだから。……逃げたん、だから。
「……瑠璃は萩原の気持ち知ってたの?」
つないでいた手をそっと離して、聞いてくる先輩。
それはちーくんがわたしを好きなことを知っていたのかという問いかけで、素直にうなずいた。
「知って、ました」
「……知ってて当然ですよ。
瑠璃に話を切り出されて、別れたんですから」
「……は? どういうこと?
もともとふたりって付き合ってたわけ?」
翡翠しか知らなかった、わたしとちーくんの関係。
わたしにはずっと好きな人っていうのがいなくて、ちーくんはずっと昔から、わたしのことを好きでいてくれていて。
中学生の頃、「なら付き合えば?」って翡翠の一言で、わたしとちーくんは恋人になった。
でもそれは、4月下旬までの話だ。