そのなみだに、ふれさせて。



うながされて、紅茶を口に運ぶ。

甘くて、でもうっすら苦味のあるそれは、無意識に入った肩の力を抜いてくれた。



「南々ちゃんは、

いっくんに甘えたわけじゃないんでしょ?」



「わたしは……そうね。

いつみのことが好きで、でも言えない時期もあって。……そのあと好きだって言ってくれて、結局はここに行き着いてるわね」



「いいなぁ。

好き同士なら、やっぱり別れたりしないのかな」



じゃあ、わたしの両親は好き同士じゃなかったんだろうか、と。

耽るわたしを現実に引き戻したのは、南々ちゃんの困ったような笑みだった。



「お互いに好きならうまくいく、なんて。

きっと物語上の、都合のいい話だけなのよ」



「……?」




そりゃあまあ、たしかに。

そんなハッピーエンドばかりなら、誰も恋愛で苦しんだりしないだろうけど。



「なんか、不穏な言い方するね」



「そう聞こえちゃった?」



「……もしかして。

南々ちゃん、いっくんと別れたことあるの?」



黒い瞳が、照明で透けるような色合いに見える。

ガチャッと玄関で扉の開く音がして、いっくんが帰ってきたのがわかった。



「さあ。……どうかしら?」



「え、え!? 別れたことあるの!?」



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