そのなみだに、ふれさせて。
なにその話……!
てっきりずっと付き合ったまま、めでたく結婚したんだと思ってたよ……!
「ただいま。……何の話してるんだ?」
「おかえりいっくん!
あのねっ、南々ちゃんが、いっくんと別れたことがあるような不穏な発言してて、」
本当なの?って。
首をかしげるわたしに、苦笑しながらネクタイを緩めるいっくん。南々ちゃんは優雅に紅茶を嗜むだけで、その質問に答えてくれる気はないらしい。
「ああ……別れては、ねえけど。
確かに別れを切り出されたことはあるな」
「なんで……!?」
喧嘩でもしたの……!?
こんなに仲良しなのに!?と。目を見張るわたしの思考など、たやすくお見通しのようで。いっくんは「色々あったんだよ」とつぶやく。
「まあ、俺が足掻いて別れなかったけどな」
「そう、なんだ……」
「ときには諦めの悪さも必要だろ?」
くすりと笑って、着替えるために一度2階に上がっていくいっくん。
いつものように先にお風呂に入る彼の夕飯を用意するため、南々ちゃんも席を立った。
「諦めの悪さ……」
わたしには、なかった。
……目を背けて逃げることで精一杯で。
「好き」なんて。
一体、どの口が言えるんだろう。