そのなみだに、ふれさせて。
とんとんと階段を上がって、教室に向かう。
ひさしぶりの教室はなんだか遠目に見ていてもさわがしくて、すぐにその中心にいる人に気づいた。
「ほづみ。
あとでまた来てやるから、いまは、」
教室の廊下側、いちばんうしろの席。
そこに座る彼女は、開け放たれたドアのこちら側にいる会長のことを、引き止めていた。
息を呑むくらいに、綺麗な、女の子。
あけみ先輩はわたしをロリータ顔のフランス人形って言うけど、目がぱっちりしたその子こそ、お人形さんみたいで可愛かった。
誰が見たって美人と答える。
紫逢先輩とは違う、和の香りがする。
「でもまだ、休み時間でしょう?
あと数分だけでいいから、ここにいてほしいの」
透き通るような、やわらかくて凛とした声。
わたしは絶対言えない、会長へのわがまま。
「……わかったよ」
"彼女"のわがままに折れた会長は、薄くため息をつく。
そしてふいに視線を上げたかと思うと、ばっちり彼と視線が絡むハメになってしまった。
「おはよう。
……めずらしいな。授業に出るのか」
「おはよう、ございます」
転校生である彼女を見るためなのか、それとも普段はあの塔にこもって出てこない会長を見るためか。
ギャラリーが多い中で話し掛けられて、ジリッと自分の中で何かが焼ける。焼けて、焦げる。
「あっ」
挨拶を返すだけで何も言えなくなって、薄くくちびるを噛んだ時。
耳に届いたのはあの子の声で、彼女はわたしに向かってふわりと満面の笑みを浮かべる。それすらもひどく美しくて、息が詰まった。