そのなみだに、ふれさせて。
「葛西。お前何しに来たんだ」
「やだなぁ会長冷たい。
俺も特進の生徒なんだから、別にこの棟にいたって何もおかしくはないと思うよ?」
「残念だったな、2年の教室はもう1階上だ」
ゆったりと歩み寄ってくる彼のプラチナゴールドの髪が、ふわりと揺れる。
ゆるやかに弧を描く口元。オッドアイがわたしを見つめて甘やかに細められたかと思うと、彼はわたしの腕を引いて、引き寄せた。
「"何しに来たんだ"って。
かわいい俺の彼女に会いに来たんだよ」
「……彼女?」
会長が、眉をひそめる。
それを見て、そういえば会長はわたしと紫逢先輩が付き合ったことをまだ知らないんだっけ、と昨日のことを思い出した。
「そ、彼女」
「お前何考えて、」
「あ、余計な口出ししないでくれる?
俺も会長の"彼女"に口出しする気ないから」
空気が、ピシッと割れた音を聞いた。
ばらばらとその破片が散っていくように、「やっぱり彼女なの?」とひそひそ声が上がる。
……言ってなかったんだ。
こうやって会長がわざわざ出向いてるってことは、誰から見たって特別な女の子なのに。
「かわい。……瑠璃、髪巻いたの?」
紫逢先輩の指先が、今朝意味もなく巻いてみた髪に触れる。
顔を上げたら目が合って、ふわりと微笑んだ彼のくちびるが、わたしの頬に軽く触れた。