Miseria ~幸せな悲劇~
涙が込み上げてきた。
「うぐ、えぐっ……」
歓喜する訳でも、声をあげる訳でもない。ただ美花はどこからか溢れてくる涙を、躊躇うことなく流し続けた。
その涙の意味は昨日まで彼女が流していたものとは違う。悲しみでも、悔しさでもない。
そっか、私は……私は風花と……まだ一緒にいられるんだ……風花は私を、置いてったりなんかしなかったんだ……!
すっと胸の奥に詰まっていたものが、涙と共に流れ出た気がした。
同時に、心の底から神様に感謝した。あの夢は嘘じゃなかった。喰イ喰イは、風花を救ってくれたのだ。
「……ええ、奇跡ですよ。今朝、簡単な検査をしてみましたが、まるで事故そのものがなかったかのように……ええ……外傷もありませんし、一切の障害の心配もないでしょう……」
電話越しに医者は美花の母にそう告げた。医者ですら風花の回復は説明がつかないほど驚異的なものだった。
「本当に、ありがとうございます……」
美花の母は泣きながら医師に言った。
「いえ、私達は何も……すべては風花さんご本人と、奇跡を信じ続けたご家族のおかけです」
医師がそう言うと電話の奥で誰かの声がした。
「ねぇ、今お姉ちゃんがそこにいるの?」
それはつい昨日まで昏睡状態にあった風花の声だった。