Miseria ~幸せな悲劇~
「ふふっ……」
どこから現れたのか。あの黒髪の少女、喰イ喰イが部屋の隅で美花を睨みつけた。
「つっ……!」
突然、美花は右足を踏み外して転倒した。今まで感じたことのないような神経に響く痛みが美花の右足を電撃のように走った。
「美花? どうしたの?」
突然、美花が何もないところで躓いたように見えたのか。母は不思議そうに美花に声をかけた。
「うあ゛、あ゛あ゛……!!」
美花は激痛のあまり絞り出すような声をあげた。右足がおかしい。ここには神経が通っているのか?
脳が動けと命令を出しても反応がない。まるで、他人の身体のようだ。
「美花!!!!!」
美花の異常にようやく母は気づいた。そして、血相を変えて美花に駆け寄る。
美花は右足を抱えたまま辛酸を舐めたように唇を噛みしめ床にひれ伏した。すさまじい激痛が美花を支配する。右足と脳を繋ぐ神経か何かが、バチリと切れたような感覚がした。
「う、動かない……足が……動かない…………」
なんの前触れもなく、ただ、妹の回復に心を踊らせていた時だった。その瞬間から、美花の右足は自由に動かなくなってしまったのだ。