Miseria ~幸せな悲劇~

放課後、メイ達三人は急いで美花のいる病院に向かった。


「美花……」


祐希は美花の病室の前で呟くと、病室のドアに手をかけた。



ガシャン!!!



祐希がドアを開けようとすると、病室の中からドアに何かが投げつけられた。祐希は驚いてドアから身を引いた。


「帰れよ……!」


ドアの向こうから美花の声がした。萎縮してしまうほど圧のある怒鳴り声だ。


「……」


メイと詩依は美花の言葉に身を竦めた。怪我の程度については聞いていた。少なくとも、回復に数年はかかるらしい。それどころか、永久に治らないかもしれない。まして、サッカーは……


「私だよ、祐希……」


祐希は小さな声で語りかけた。幼馴染みとして、美花ともっとも親交のあった彼女が二人に先だって言った。


「……」


返事がない。病室の前にいるのが祐希であると分かっても、美花は無言のままだ。


「入ってもいいかな……? 美花……」


「帰れよ…! 誰とも会いたくない……」


美花が答えた。何もかも拒絶するような絶望が、彼女の声に込められていた。


「…………でも、私……」


祐希は臆せず美花に話しかけた。


しかし、美花はどっと怒りが込み上げたように、また、扉にむかって物を投げた。


ガシャンと、ガラスが割れるような音がする。


「いいから帰れ……!! うざったいんだよ……!」


美花が病室の中で声をあらげた。親友にむけたとは思えないほど、恐ろしい叫びだ。
< 121 / 394 >

この作品をシェア

pagetop