Miseria ~幸せな悲劇~

「美花は喰イ喰イを呼び出したのよ……多分昨日、学校を早退した後に……」


詩依は別人のように暗く沈んだ表情で言った。


「呼び出す…? それって喰イ喰イが本当に存在するってこと?」


メイは詩依に尋ねた。彼女の表情から冗談を言っているようにはとても思えなかった。しかし、メイにはまだ、喰イ喰イのおまじないを疑う余地があった。


「ええ……あれはただのおまじないじゃない…成功すれば、どんな運命からでも逃れることができる。例えどんな不幸でも、なかったことにできるの……」


詩依はためらわずそう断言した。まるで、本当に喰イ喰イに会ったことがあるかのように。


それは一昨日、祐希の家で見せた彼女の態度とは異なっていた。あの時はまだ、その存在を否定も肯定もしていなかったはずだ。ただ面白半分に、都市伝説の一つとして考えていたに過ぎなかった。


「じゃあなんで…? それで美花が足を怪我しなきゃいけないの…?」


祐希は不安げに詩依に尋ねた。


「…………それは」


詩依は唇を噛みながら黙ってうつむいた。話すことをためらっている様子である。


「もしかして、おまじないにはまだ知られていないルールがあるってこと……?」


メイが恐る恐る口火を切る。今まで考えたこともなかった。しかし、もし喰イ喰イの存在を前提にするならば、それで一連の出来事にいくつか説明がつくものがあった。


「……ええ。喰イ喰イはただ私達の不幸を消すだけじゃない。運命から逃れただけ、代償を背負わせていくのよ……」


メイと祐希は詩依の言葉に息を飲んだ。


『代償。』


その言葉が、メイの頭にこびりつく。
< 127 / 394 >

この作品をシェア

pagetop