Miseria ~幸せな悲劇~
詩依はパニックになりながら部屋を飛び出した。すると真っ黒な煙が家中を漂っていた。
間違いない。誰かが家に火をつけた。
とっさに口を押さえ、煙の吸引を防ぐ。詩依は煙を掻き分けながら階段を降りていった。
「………はぁ、はぁ、はぁ」
一階は二階とは比較にならないほど煙で包まれていた。さらに悪いことに、台所の方から、天井まで届くほどの火が詩依にむかって迫る。
熱い! 熱い!
さっきまでそこにあったものが全て灰となって燃えていく。生き物のようにうねる真っ赤な炎が襲いかかる。
「い、嫌、怖い、誰か………」
これほど死が間近に迫ったことはなかった。あまりの恐怖に足がすくむ。
やばい! 早く逃げなきゃ!
そう思っても、身体が言うことをきかない。
「ゲホッ、ゲホッ…………!!」
煙は容赦なく詩依を襲う。意識が保てない。これが一酸化炭素中毒というやつだろうか?
眠りに落ちる前のように、遠ざかる意識を手中にとどめておくことができなかった。
私は、ここで死ぬの……?
「………………」
目の前がぼんやりと薄れていく。詩依はそのまま、意識を失い倒れてしまった。
火と煙に包まれた家の中で……。