Miseria ~幸せな悲劇~

すると喰イ喰イは、本当に彼女の夢の中に現れた。そこは貴族が住むような洋館だった。詩依はラベンダー色のドレスを着て喰イ喰イとテーブルを囲んでいた。


喰イ喰イと何かを話した。内容までははっきりと思い出せない。すると、喰イ喰イは席を立って詩依に歩み寄る。彼女の唇が目の前まで迫る。


「あれ? 私は今まで……?」


目が覚めると、詩依は火事になる前と同じように、いつものベッドの上で朝を迎えた。家の中の何もかもが元通りだ。それどころか、世界からあの火事に関する全ての記憶がなくなっていた。


そしてそれは、詩依自身も同様だった。彼女の頭からも、それに関する一切の記憶が消えていた。誰にも信じてもらえなかった、あの最悪な記憶もだ。


それは喰イ喰イを呼び出したことでさえ例外ではない。全て忘れてしまったのだ。


全部、彼女が願った通りだった。彼女の不幸は完全に消えた。
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