Miseria ~幸せな悲劇~
祐人の宿題を、そこそこ勉強ができる祐希が教えてあげることがよくあった。母が生きていた頃、よく祐希にしていたように。
祐希は祐人になるべく母親がいない寂しさや、生活上の不便を感じてほしくなかった。だからこそ祐人にやってあげられることは全てやった。勉強も、料理も、洗濯も、できることは全部だ。
「姉ちゃん、その怪我どうしたの……?」
祐人は祐希の額の傷を見て言った。祐希は傷を隠しながら、精一杯の作り笑いをした。
「ああ、ちょっと転んじゃって……」
祐希は嘘をついた。祐人には余計な心配をかけたくなかった。
「………………」
祐人は不審そうに祐希を見つめた。すると、すぐに怪我の理由を悟ったようになんともいえない悲しそうな顔をした。
「……また、父さんにぶたれたんだね」
祐人は消え入りそうな声で言った。祐希は思わず祐人から顔を背けた。祐人に心配をかけまいと気遣った嘘が、余計に祐人の心を苦しめた気がした。
「うん。でも大丈夫。全然痛くないし…………」
大丈夫。痛くない……また祐希は嘘をついた。祐人にだけは祐希の弱さは見せたくなかった。気丈に。祐人を守る母親でいたかった。