Miseria ~幸せな悲劇~

「ごめんなさい。姉ちゃんにばかり苦労させて…」


祐人は小さな拳を握った。


「母さんが死んで、父さんがあんな人になって……でも姉ちゃんは……僕達を守るために必死で努力してるのに……なのに僕は……何の力にもなってあげられない……」


「祐人……」


思わず祐希は祐人を抱き締めた。細い彼の身体から確かな体温が伝わってくる。


「ね、姉ちゃん……?」


祐人は少し困惑した表情を浮かべたが、次第に穏やかな彼女の温もりに浸っていた。


「いいんだよ。私はお母さんが死んでから、お母さんの代わりになろうって決めたから。だから祐人が幸せなら、それだけで私は満足だよ…」


祐希と祐人の目が静かに合わさった。祐希は嬉しかった。祐人が自分のことを思っていてくれることに。父親との確執が決定的になった今、反対に姉弟の絆が深まっていることを祐希は感じた。


「…………」


祐人もまた、そんな祐希の言葉に嬉しそうに頬を染めた。
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