Miseria ~幸せな悲劇~


「変だよ。今日の美花……」


メイはポツリと呟いた祐希の言葉を辛うじて耳にした。


確かに、今日の彼女は変だ。


美花は普段から暴力癖はあったが、この日は一段と過激だったのだ。


美花の表情も何かがいつもと違う。


どこか物憂げで暗く、その鬱憤を関口に当たり散らしているようにメイには思えた。


祐希はそんな美花にある種の恐怖を覚えたのかもしれない。


「たくっ……」


見かねたメイは、関口を殴ろうと振り上げた美花の手を軽々と押さえつけた。


「おい、メイ!!!」


メイは冷めた表情で美花を見つめた。


あれだけ関口に暴力を振るっていた美花の腕も、メイに押さえつけられたことでピクリとも動かなかった。


美花はせっかくの喧嘩を止められて苛立ちを覚えたのか、メイに少しばかり敵意を持った表情で訴えた。


メイ! いいところなんだよ! 邪魔すんな! とか、そういった熱のこもったセリフが美花の喉まで出かかっただろう。


「はぁ……」


メイは目を閉じてため息をついた。


そして再び目を開けると、美花の胸ぐらを空いていた手で掴んだ。


「いい加減にしろ。美花……!」


メイは凄まじい気迫で美花と関口を睨みつけた。


美花と関口はゾッとしたように身体を震わせる。


メイの脅しは、祐希の言葉を聞き入れなかった美花を一瞬で沈黙させた。


同時に、美花の中にあった喧嘩への熱が冷め、冷静さが頭に戻ってきたようで、美花は拳をおさめ、関口の元を静かに離れた。
< 16 / 394 >

この作品をシェア

pagetop