Miseria ~幸せな悲劇~
「変だよ。今日の美花……」
メイはポツリと呟いた祐希の言葉を辛うじて耳にした。
確かに、今日の彼女は変だ。
美花は普段から暴力癖はあったが、この日は一段と過激だったのだ。
美花の表情も何かがいつもと違う。
どこか物憂げで暗く、その鬱憤を関口に当たり散らしているようにメイには思えた。
祐希はそんな美花にある種の恐怖を覚えたのかもしれない。
「たくっ……」
見かねたメイは、関口を殴ろうと振り上げた美花の手を軽々と押さえつけた。
「おい、メイ!!!」
メイは冷めた表情で美花を見つめた。
あれだけ関口に暴力を振るっていた美花の腕も、メイに押さえつけられたことでピクリとも動かなかった。
美花はせっかくの喧嘩を止められて苛立ちを覚えたのか、メイに少しばかり敵意を持った表情で訴えた。
メイ! いいところなんだよ! 邪魔すんな! とか、そういった熱のこもったセリフが美花の喉まで出かかっただろう。
「はぁ……」
メイは目を閉じてため息をついた。
そして再び目を開けると、美花の胸ぐらを空いていた手で掴んだ。
「いい加減にしろ。美花……!」
メイは凄まじい気迫で美花と関口を睨みつけた。
美花と関口はゾッとしたように身体を震わせる。
メイの脅しは、祐希の言葉を聞き入れなかった美花を一瞬で沈黙させた。
同時に、美花の中にあった喧嘩への熱が冷め、冷静さが頭に戻ってきたようで、美花は拳をおさめ、関口の元を静かに離れた。