Miseria ~幸せな悲劇~

「だからって、いつまでもメソメソするなよな…」


美花は少しやきもきした様子で言った。この時の二人はまだ、友達と言うよりも、単なるクラスメートに過ぎなかった。二人だけで遊んだこともなかった。


それでも、美花は延々と泣き続ける祐希のことを放ってはおけなかったのだろう。


美花は祐希の側を離れなかった。


「おまえより弟の祐人の方がずっと辛いんだぞ。お姉ちゃんのおまえがそんか弱虫でどうするんだよ!」


美花は祐希の顔を覗きながら言った。


「でも、無理だよ……」


祐希は弱々しく答えた。


どんなに励まされても、母を失った悲しさは変わらない。


それをお姉ちゃんだからといって、克服することなんてできない。


祐希はそんな心情だった。


「ちっ………」


美花はそんな祐希に小さく舌打ちした。


「ほら、これやるから」


やれやれといった具合で、美花はポケットの中からチョコレートを取り出した。


美花がよく黙って小学校に持ち込んでいたのを祐希は知っていた。


「………う、うん」


祐希はそのチョコレートを小さな手で受け取った。
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