Miseria ~幸せな悲劇~

「ふふふ、ふふふっ………」


晋吾は半狂乱に笑っていた。顔の筋肉は薬物中毒者のように弛緩し、ギョロギョロと祐希を睨む。


その手に握られた凶器の刃に、祐希の姿がはっきりと映った。


「一緒に行こう、祐希、なぁ…!?」


晋吾は包丁をちらつかせながら祐希に迫る。彼の持つ恐ろしいほどの狂気が全身から滲み出ていた。


「………お父さん」


祐希はそんな父に背をむけたまま佇んでいた。いつもの彼女なら泣きわめいてしまうような状況だ。しかし、祐希の声は妙にはっきりしていた。


「幸せになろう、祐希! また、一緒に暮らせるんだぞ! 俺達家族で……!」


晋吾は呂律が回らない様子でそう叫んだ。


その直後に、ガシャン! というガラスが割れる音がした。祐希が手にしていた塩水の入ったコップが床に落ちて割れたのだ。
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