Miseria ~幸せな悲劇~
「そんなもの、簡単な話よ。だって…………」
喰イ喰イは手にしていたナイフとフォークを皿の上に置くと、青い瞳を細めて失笑した。
「それがルールだから……」
「ルール……?」
祐希はそんな喰イ喰イの言葉に額から汗がにじみ出た。
「あなた達人間は、予め定められた運命というシナリオを忠実に演じる役者にすぎない。どうあがこうとも、本来はこの舞台からおりることはできないし、シナリオを変えることもできない……」
そう言うと喰イ喰イはおもむろに晋吾の頭に手をかざした。
「う゛が、う゛があ゛あ゛…!」
すると晋吾の体から沸き上がるように血が吹き出し、やがて晋吾の頭がむくりと膨れ上がった。
「………でも私なら人間の運命を力ずくでねじ曲げることができる。あなた達一人一人のシナリオを変えて、都合のいい役を演じさせてあげられるのよ……」
パンパンに膨れ上がった晋吾の頭から、人間のような小さな手が飛び出してくる。
そして、その手は晋吾の頭を引き裂いて、やがて頭の中から一体の人形が這い上がってきた。
「アウ、アア…」
その人形は祐希そっくりの顔をしていた。しかし、目だけは、白目がつぶれるほど真っ暗だった。
人形は奇声をあげながら、喰イ喰イのテーブルの上に這い上がってくる。
喰イ喰イは人形を手で弄った。