Miseria ~幸せな悲劇~
同じ頃、


「はぁ、はぁ、はぁ…」


人形から逃げ回った麻衣は疲弊した様子で下駄箱の辺りに身を潜めていた。


「はやくメイさんと合流してあのお化け人形のことを伝えないと…いくらメイさんでも不意打ちで刃物はやばいだろうし…」


麻衣は汗を流しながら人形に切りつけられた右足のふくらはぎを手で押さえた。


「いててぇ…」


血はほとんど出ていなかったがじんわりと傷口が痛んだ。


「メイさん……」


少なくともメイとの合流を諦めてこのまま外に出てしまえば麻衣は人形達の恐怖からは解放されるだろう。


だが、この機会をうまく利用してメイを人形の危険から救い出せれば、麻衣は恩人としてメイにもっと近づけるかもしれない。


そんな誘惑が麻衣の中で人形への恐怖心を越えて存在した。


逃げていく時に教室はひと通り見たけど、メイさんはどの階にもいなかった。ということはメイさんは特教棟のどこかにいる。


だったら、一階の職員室からしらみつぶしに探せば、15分くらいでメイさんと合流できるかも。


麻衣はそう思いながら立ち上がった。


「そうと決まれば行動あるのみ! まず手始めに職員室からだね!」


麻衣はメイを探しに向かおうとしたが、


「キャハハ…!」


そんな彼女のもとにまたあの小さな陰が迫る。
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