Miseria ~幸せな悲劇~
「グゲフッッ…!!」
人形は車にはねられた子供のように吹っ飛んでいった。
「さぁ、まだお姉さんと鬼ごっこ続けるのかな?」
麻衣は堂々と傘を人形達にむけた。さっきまでは人形が動いたことと刃物に対する恐怖心でうまく動けなかったが、実際は人形の知能も運動能力も園児程度だ。
「ドウシヨ、ミンナ?」
「デモ、ツカマエナイトゴ主人様ニオコラレルシ…」
「ジャア、ヤルシカナイネ…」
人形達は全員でひそひそ話をした後、怯みながらも麻衣に迫った。
なんだ。こんなことでもう私にびびってんじゃん! こいつら!
刃物に気をつけさえすれば人形はさほど怖くない。
自分でも十分戦うことができる。
「でも、いちいち人形の相手をするのは面倒だね」
麻衣は先ほど蹴り飛ばした人形を踏み潰して特教棟にむけて走り出した。
「ふん、捕まえてみなよ! お人形のちびっ子達!」
麻衣は中指を立てて人形に言い放った。
「キギシャアァァァァァアアアア!!!!!」
麻衣の挑発に乗ったのか、人形達は奇声をあげながら襲いかかった。
麻衣はそんな人形をかわしながら特教棟に向かって走る。
「さて、はやくこいつらをまいてメイさん達のところにいかないと…!」
こうしている間にもメイ達に学校にいる別の人形の危険が迫っているかもしれない。
その場合、美花のいないメイは祐希や詩依を守りながら人形と戦えるのだろうか?
そんな思いが麻衣の足をさらに加速させた。
「無事でいてメイさん! すぐに私が助けに行くから!」
麻衣は人形に立ち向かい実際に優位に立つことができた。ならば今、この瞬間、メイを助けられるのは自分だけじゃないか。麻衣の中でそんな考えが過る。
「そうだ! 私ならメイさんの力になれる! 今、この状況であなたを助けられるのは私だけなんだ!」
これまでの人生にない、まさに非日常の空間の中で、麻衣は心臓が飛び出るほどの興奮と効力感を味わっていた。
だからお願い!!
もし私がメイさんを助けることができたら、メイさんの力になれたら、
私を認めて、私のことを親友って呼んでくれるよね……!?
麻衣はそんなことを考えながらニコリと笑った。彼女の脳裏にメイの笑顔がチラリと過った。いつかあの笑顔を自分の隣で、自分だけのために。
「……メイさん、私………………