Miseria ~幸せな悲劇~

「はぁ、はぁ、はぁ……!」


美花、美花…!!


祐希は学校の階段をかけ下りて美花の影を追いかけた。


「待って! また私を置いてかないでよ…!」


祐希は無我夢中で美花を追った。


「美花、なんで逃げるの…?」


美花は祐希の呼び掛けには一切応えなかった。


「………」


一瞬祐希の視界から消えて再び視界の端に現れる。


美花はそうやって祐希をどこかへ誘導しているようであった。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


そして気がつくとそこは一階、特教棟と教室棟の中間地点であった。


「……ウキ…」


廊下の真ん中には赤色のドレスを着た美花が佇んでいる。


「美花?」


不自然なほど青白い肌。普段の美花をよく知っていたからこそ、熱を持たない今の彼女には違和感を覚えた。


「…………メ…ナイ」


「えっ…? 何……?」


はっきりと美花の顔は見えなかったが、美花は口をパクパクとさせて何かを訴えかけているようだった。


「…オマエハ………ジ……マ…ダヨ」


微かにモスキート音のような美花の声が宙を漂った。それはまるで三途の川を挟んで死国から祐希を呼んでいるようであった。


「何? 聞こえないよ…美花……」


裕希がそう言って美花に近づこうとすると、


「うわっ!!」


何者かが裕希の肩を掴んだ。
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