Miseria ~幸せな悲劇~
祐希が振り向くと同時に平手打ちがとんできた。
「痛っ…!」
そこにはメイの姿があった。
「ったく、勝手なことしないでよ…!」
祐希を叩いたのはメイだった。祐希を心配して焦ったのか、メイはひどく息を切らせていた。
「ごめんなさい。でも今、美花があそこに……」
「美花…?」
祐希は美花のいた方を指差した。
「別に、誰もいないけど…?」
「えっ…!」
祐希が視線を向けると、そこには先程まで廊下にいたはずの美花の姿がなかった。
「嘘、そんな……」
その廊下の奥は行き止まりであり姿を隠すには祐希の横を通る他ない。
さらに近くの部屋の鍵は施錠されており、また扉をあける音もなかった。
「あれ…? おかしいな、さっきまでずっと、美花がいたはずなのに…」
祐希は辺りをキョロキョロと見渡した。
「たしかに私も視聴覚室にいるとき、美花に似た影を見たけど…」
メイはそこまで言って言葉を飲み込んだ。
でも美花はもうこの世界のどこにもいないでしょ?
なんてこと、
祐希も分かっているはずだ。その程度のこと。
そういえば、いくら祐希が先に走っていたとはいえ、祐希に追いつくのに時間がかかりすぎた気がする。
もしかして誰かが祐希を意図的にここに誘導した?
そいつは美花の姿をした何者かか、
それとも……?