Miseria ~幸せな悲劇~
メイと祐希、詩依の三人は校舎を出てサッカー部の練習するグラウンドへ向かった。
凪瀬高校のグラウンドは校舎に隣接するものと、大通りを挟んで向かいにある第二グラウンドの二つがあり、美花達がいるのは第二グラウンドの方だ。
「三年の大野怜って人よ。サッカー部の主将だったんだけど、先月の試合中に右足にひどい怪我をしたらしくて医者にはもう二度とサッカーができないとまで宣告されていたらしいのよ……」
グラウンドへむかう途中、詩依はメイ達にむかって言った。詩依が知り合いのサッカー部員から伝聞した話のようだ。
「ああ、その人、美花がよく話してたっけ」
美花は不良のように粗野な人物であったが、自分が認めた相手のことはとことん尊敬できる純粋な一面もあった。
メイが知る限り、その数少ない人物の一人が美花の先輩であり、憧れの選手である大野怜だった。大野は関東の女子サッカーの中では知らない者がいないほど有名で強い選手だった。
「それが今朝、突然部活に戻ってきたらしくてね。まるで足の怪我が嘘だったみたいに動き回っていたって」
詩依が語ったのは美花が感じたことと同じ、大野の怪我の回復に対する違和感だった。