Miseria ~幸せな悲劇~
グラウンドでは激しい砂ぼこりが舞っていた。
「せっかく整備したのに、美花と大野先輩」
「まぁ、本人達は楽しそうだしいいじゃない。復帰記念だよ」
サッカー部員の女子達はトンボを片手に砂ぼこりの中心にいる二人の勝負を観戦していた。
「くっ…!」
美花は長い足を使って全力で大野のボールを取りにかかっていた。
「おらっ、どうした!? 病み上がりにてこずってるんじゃねぇよ…!」
大野は美花の攻撃に一切屈することなく、それどころかさらにはやくボールを生き物のように操ってみせた。
「くそっ!!」
軽快な大野のフットワークに翻弄されて美花は思い通りに動くことさえできない。とても先日まで歩くけなかった人間の動きではなかった。
劣勢の美花だったが、必死でボールを追いかけた。ただ、美花は大野の回復を身をもって体感し、改めて彼女への尊敬の念を抱いた。
「へへ…!」
美花を相手取る大野もまた気持ちよくサッカーを楽しんでいるようだった。復帰後始めての1on1の勝負で美花を翻弄し、自身の回復と快調を確信したのだろう。
二人は息が止まるほど夢中になってボールを追いかけ続けた。
大野が押していたとはいえ、とてもいい勝負だ。気がつくと片付けに勤しんでいたサッカー部員達はもちろんのこと、グラウンドにいたほとんど全ての生徒達が手を止めて二人の勝負に見入っていた。