Miseria ~幸せな悲劇~


気がつくと、


『うう、い、痛いよ………』


私はナイフを手にハンカチを差し出した水島祐希の手を切り裂いていた。


『おい、大丈夫だから、しっかりしろよ………』


赤羽美花は涙を流す水島祐希の肩を抱いて慰めていた。


『違う、違うの…! 私はただ、怖くて、しょうがなくて……』


私は何とか挽回しようと二人にむかってぎこちない言葉を並べた。


『………』


そんな私の手には、しっかりと水島祐希を傷つけたナイフが握られていた。


『でも私は、私は…!』


あなた達と友達になりたい……?


私は、こう続けたかったのだろうか。


『はっ? 意味わかんねぇし……』


『えっ……?』


赤羽美花はそんな私を憎しみのこもった目で睨みつけた。


『ひっぐ、ひっ……』


水島祐希も私の方を見ようとさえしない。


ただ赤羽美花に抱きつきながら泣いている。


『頭おかしいよ。おまえ。ほんと、関わるんじゃなかったわ………』


『………』


こうして私は、一気に壊れてしまった。


赤羽美花の口にしたその言葉と、


なによりも一時は私を救おうとしてくれた二人が見せた、あまりにも冷たいその表情に。



『もう嫌だ………』


この日以降、私は二度と凪瀬校の門をくぐることはなかった。
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