Miseria ~幸せな悲劇~
「ごめん、お待たせ」
祐希が飲み物をもって部屋に入ってきた。
「ちょっと探してみたけど、むぎ茶しかなかった」
祐希はむぎ茶入りのコップを部屋の中央にある丸い白色の机に並べた。
「おっ、サンキュー!」
祐希が来るまで適当にくつろいでいたメイ達は机のまわりに集合して麦茶を手に取った。
美花は激しい練習の後でよほど疲れていたのか清涼飲料水のCMのように一瞬で麦茶を飲みきってしまった。
「ねぇ、祐希はどう思うのよ? 喰イ喰イがいるか否か、大野がどうやって怪我を治したのか?」
詩依は美花と対称的にちびちびと麦茶をなめながら祐希に尋ねた。
「えっ、んーと、どうだろう? 大野先輩はたしかにちょっとおかしかったよね。でも喰イ喰イがいるかどうかは……んー」
そう言って祐希はしばらく身体を揺らしながら煮え切らない様子でいた。
「……正直、いたら素敵だなって思うけど、本当のことは分からないかな。でも、喰イ喰イが存在しないってことも、逆に誰にも分からないことだよね。どこかで、存在しないことの証明はできないって聞いたことがあるし」
祐希はおそらく図書館の本から得たであろう知識で答えた。
それはいわゆる『悪魔の証明』である。
悪魔が存在するのであれば一匹でも連れてこれればそれで存在の証明ができる。
しかし、悪魔がいないということを証明することは誰にもできない。
例え世界中をくまなく調査したとしても、そこに存在しないとまで言い切ることは非常に難しいからだ。
「なるほどね……」
存在否定派のメイもこれにはたしかに、と納得せざるおえなかった。
そもそも、効力が分からないおまじないや伝説上の怪物の存在はほとんど似たような理屈で成り立っているのではないだろうか。
おそらくは、誰にも存在や効力がないとまでは言い切れないから、科学的に説明できない現象や事象を信じる者が一定数いるのだろう。とメイは思った。
「てかよ、そんな答えの出ねぇことをうじうじ考えてても仕方ないと思うけどな。だいたい喰イ喰イに会いたいならもっと手っ取り早い方法があるだろ?」
美花は先ほど取ったメモ帳の紙を手にした。
「私がやってやるよ。喰イ喰イを呼び出す儀式をさ」