Miseria ~幸せな悲劇~
「…そういえば、来年はサッカー部に風花(フウカ)ちゃんが入るんだよね?」
思い出したかのように祐希が言った。
「風花? 誰よそれ?」
詩依が尋ねた。
「美花の妹、女子サッカーの全国に出たりして、中学じゃ有名人なんだよ」
メイが答えた。
「へぇ、美花に妹がいたの。ちょっと意外ね」
詩依はまだ美花の妹、風花には会ったことがなかった。風花は髪色こそ美花にそっくりだが、性格は礼儀正しく真面目で、よくできた優秀な妹だった。
「そう、あいつ推薦がもらえるもっと強いところに進学すればいいのにさ。わざわざ私を追って凪瀬にくるんだぜ!」
美花は不満そうな顔をした。
「可愛いじゃないその子。お姉ちゃんと同じ高校に行きたいなんて」
詩依が言った。一人っ子の詩依には姉を追いかけて進学先を決める風花が微笑ましく思えたのだろう。
「はっ? 正直大迷惑だわ。悔しいけどあいつ私より才能があってうまいし……ったく、ようやくとれた私のレギュラーがピンチだよ。そうまでして私から活躍の場を奪いたいかね」
美花は腕をボキボキと鳴らした。見た目にはかなり不機嫌そうである。しかし、祐希はそんな美花を見て嬉しそうな表情を浮かべた。
「……とかさ。口では言うんだけど。美花と風花ちゃん、本当はすっごく仲がいいんだよ。美花は照れてるけど、高校では一緒のチームで風花ちゃんとサッカーするって、約束までしてるんだから」
祐希が美花に聞こえるような声で詩依に耳打ちした。
「なっ、おまっ!」
それを聞いて美花の顔は柄にもなく赤くなった。
「う、うるせぇー!変な勘違いしてんじゃねぇ!私は別に、そんなこと思ってねぇし!」
美花はむきになって反論した。