Miseria ~幸せな悲劇~
「とにかく、私は喰イ喰イにサッカーの才能がない不幸を食べてもらうからな!それで大野先輩に勝つくらい天才になってやる!」
美花が熱を込めて言った。
「だったらさ、まず学校では喧嘩しないで真面目になるとか、美花にはもっと変えるべきところがたくさんあると思うけど……」
祐希が美花にダメ出しした。
「あ? なんだよ祐希、そんなのとサッカーの才能は関係ないだろ!」
美花は祐希に反発した。
「だって、この前読んだ本にはさ…」
「はっ!? 本だ!? どうせくだらねぇ精神論だろ!そんなもん、体の鈍った馬鹿が読むものだ!」
美花は頭ごなしに否定した。美花にはオリンピック選手が書いた自伝にあるような理屈は通用しないのだ。
「ちょ、美花! 何その言い方! だいたい美花はいつもそうやって……」
美花と祐希はメイ達をおいてけぼりにして口喧嘩を始めた。
「あーあ、また始まった。夫婦漫才」
メイはため息をつきながら麦茶を飲んだ。
美花と祐希は小学校からの幼馴染みだが、時々、本当の兄妹のように揉めることがあった。
大抵はだらしない美花と生真面目な祐希、もしくは、はっきりと決めたい美花とうじうじと悩む祐希の衝突が原因である。
「どうする詩依、止めに入る?」
こうなるといつもメイと詩依は距離をおいて二人を遠くから眺めることになる。それはそれで面白いが、長引くと数日は続くこともあった。
「はぁ、才能ね……」
この時の詩依は二人を見て少し不機嫌そうだった。
「詩依?」
スポーツの才能にまつわる二人の口論は詩依にとって不快なもののようであった。