Miseria ~幸せな悲劇~
「まぁ、あれね……」
詩依はため息をついてから二人の間に割って入った。
どうしても美花が不幸と思っていることに対してもの申したかったのである。
「私に言わせてみれば、才能とか……自由にスポーツができるってだけで羨ましいわよ。私の場合はそれ以前の問題だしね……」
詩依は自分の腹部の辺りを撫でた。
「あっ……」
美花と祐希はまずいという表情を一瞬浮かべて口喧嘩を止めた。文字通り詩依の傷に触れてしまったと感じたからであろう。
メイも二人と同じく、詩依の心情を汲み取った。
詩依は体育で運動をすることを制限されていた。彼女は心臓を病んでいたからだ。
詩依は子供の時から心臓の治療を受けていた。そして、現在に至るまで、彼女が生きるための治療は続いている。
「その、わるかったよ、詩依……」
「…………」
美花は詩依の言葉に申し訳なさそうに呟いた。
「別に。そういうつもりで言った訳じゃないわ」
詩依は目をそらしながら淡々と答えた。
詩依からすれば、スポーツの才能なんて贅沢な悩みだった。試合や競技の結果が悪くても、ただなんの制限も受けずに走り回ることを、詩依はずっと望んでいたからだ。