Miseria ~幸せな悲劇~

水島宅の玄関で祐希はメイ達を見送った。


「じゃ、また学校でな」


美花が言った。


「お邪魔しました」


詩依はペコリと挨拶した。


「ほんと、ほんとにごめんね。もっとお話、したかったんだけど……」


祐希が申し訳なさそうに言った。


「大丈夫、気にしないで」


メイが玄関のドアに手をかけて微笑んだ。



ふとメイが玄関の壁に目をむけると、そこには祐希の家族の写真が飾られていた。


写真には幼い頃の祐希と祐希の弟の祐人、先ほどの声の主である祐希の父、そして母の姿がある。


そっか、たしか祐希のお母さんは……


メイは祐希の境遇に思いを巡らせた。


祐希の母は祐希が小学生の頃に病気で亡くなっていた。


それから祐希の家にはどこか影が差し始めた。悲しみを押し込めるかのように懸命に働く父と、幼くして母を亡くした祐人。そして、祐人のために母の代わりとしてできることは全て行ってきた祐希がいた。


その家族が築いてきたバランスが、この時、少しずつ崩れてきていたのである。
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