Miseria ~幸せな悲劇~
「……美花?」
突然、美花は後ろを向いた。
「はは、メイ、ごめんな、変な話に付き合わせちゃって…」
美花の背中は無理に笑いながら言った。
「美花? なにか私に隠してない……?」
不安そうな声で、メイは率直に美花に尋ねた。しかし、美花は頭だけで振り返り、いつも通りの乱暴な目つきでメイをチラリと見た。
「……まさか。メイ、私がそんなタイプに見える?」
その声からはさきほどまで見せていた美花の弱さはなかった。いつも通り。ただいつも通りの美花である。
「……だけどさ」
「じゃあ私、行くところがあるからここでな」
美花は手をふりながら家とは逆方向へ歩いて行った。
「え、どこ行くの? もう遅い時間なのに……」
メイは心配そうに美花を呼び止めた。
「ちょっとスポーツ店にね。メイは興味ないだろ? じゃあまたな」
そう言って美花は走って行ってしまった。
「…………」
メイは消えていく美花の影を見つめ続けた。薄暗い闇の中を走っていく美花は、どこまでも遠くへ消えていってしまうようだった。