Miseria ~幸せな悲劇~
「あら美花、こんなところにいたのね」
美花が座っているベンチの横に、担任の教師である鈴木恵が座ってきた。
「……なんだ、鈴木かよ」
美花は手にもっていた袋ごとポケットに手を突っ込んだ。
「夏でもここは涼しいわね。私が凪瀬の生徒だった時も、よくここでお弁当食べたりしてたわ」
「……あっそ」
美花は微笑みながら語る恵を無視して席を立った。この時の美花は誰とも会話したくない気分だった。ましてたかが担任の教師なんかとは一緒にいることさえ嫌だった。
恵はそんな美花の態度に決して嫌な顔はしなかった。恵は担任の教師として唯一、妹の風花の病状を知っていた。恵は優しい口調で美花に語り続けた。
「ねぇ、美花、一つ聞いてもいいかしら?」
美花は恵の言葉に立ち止まり、小さく振り返った。
「…………なに?」
美花は不快そうに言った。
「風花ちゃんの事故のこと……美花はまだメイ達に話していないんでしょ?」
「……」
美花は唇を噛みしめて黙りこんだ。美花の脳裏には、風花が事故にあった日の記憶がよぎった。
「……だったらなんだよ? 関係ないんだろ、あいつらには……!」
美花は強い口調で声をあらげた。